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どうしたのさ?

「で……」  アスカは男の思いを量りつつ、アルファに視線を戻して言葉を繋いだ。 「あんたは……」  男は五人の魂が自ら望んで行くべきところへ行けるよう、アスカを使って一度きりの機会を作り上げた。死した直後に眠りについたのが幸いし、魂に輝きを残していたことで可能にした訳だが、目覚めればどうしても生者であった頃の記憶に迷わされる。迷えば魂にも必然的に翳りが浮かぶ。その理から外れず、五人も男が与えた機会に背を向け、憑依の道へと突き進んで行った。そうなることが男にはわかっていたのかもしれない。それでも見捨てられなかった。男は精霊の恩情に縋った。 「で、あんたは……」  五人が青年によってどうされたのかを考えたのなら、男が完璧な無表情と沈黙に押し隠す思いも見えて来る。僅かな刺激で爆発し兼ねない状況にあるはずだ。それだけにアルファへの言い返しも気負いのない自然な調子になるよう、アスカは心掛けた。 「……どうしたのさ?」

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