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唸ってみせて?

「へぇ……」  アスカの気のない返事が周囲の空気を微妙に震わせた。それも胸に湧いた不安のせいだが、自分自身の恐れから来る感情でないだけに、露出させないよう気のない返事で誤魔化したのだ。誤魔化したものは他にもあった。アルファの言葉の一部分を、まるで選び取ったかのように、青年の声音で聞いた事実へのアスカ本来の思いだ。  精霊による介入がなかったのは、感覚的にアスカにもわかっている。そうなるとアルファがアスカの意識内に入り込み、ありのままに聞かせたことになってしまうが、そうされた感覚もまたアスカにはなかった。むしろ逆なら腑に落ちた。  無意識とはいえ、アスカ自身でアルファの記憶を意識内に引き込んで、再生させたというものだ。精霊達の膨大な噂の中から、占いに必要な部分を選び取って来たアスカの小賢しくも慣れ親しんだ技法の応用といったところだが―――。 「うーん」  誤魔化しついでの時間稼ぎに、アスカは唸ってみせていた。

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