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時間を稼いだ?
「てか……」
アスカにすれば奇妙な感覚ではあった。謎めいた自身の能力に触れられたようで、こそばゆくてならない。ただそれを認めてしまうと、精霊が勝手にしたという言い訳が成り立たなくなる。盗み聞きしたようなものなのだ。ほじくり出さない方がいい。それに誰の声音で聞いたとしても、気にするべきは青年の言葉にある。
〝僕は自分が何者で、何の為に生まれて来たのかを理解しているんです〟
人間とかかわりの深いヴァンパイアや人狼の過去は、存在に直結し、命にも影響する。そのことを人間に知られない為にもと、彼らはモンスター居住区に暮らすモンスター達の個人情報の秘匿の許可を得た。人狼はヴァンパイア程に熱心ではないが、それでも仕事において必要最低限の顔出ししかしていない。そうした努力も、青年に限ってのことだが、無駄になったと言えるだろう。
アスカは感慨深げに男を見詰めた。
「っうと……」
さらなる誤魔化しを口にして時間を稼いだ。
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