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気長に行くしか?
男がアルファと何を話したのか、そこをありのままに聞けたのなら、男の完璧な無表情も無意味に出来る。そうした安易な考えのもと、アスカは意図的に男の記憶を意識内に引き込もうと頑張ってみた。具体的に何をしたのかというと―――ほじくり出さないと決めたのでもあり、精霊に聞く訳にも行かず、男を見詰め続けることしか出来ないでいた。
騒がしく喋り合う精霊達と違って、男はだんまり一筋でひたすら静かだ。アスカの技法が騒がしさの中から必要な噂を選び取るものであるせいか、沈黙する男には機能しにくいようでもある。秘密裏にと願っているのだ。誤魔化しによる時間稼ぎが周囲の静寂をより深めたとあっては、諦める他ないようにも思えた。
「っうか……」
相手はヴァンパイアだ。沈黙のみならず、彫像のように突っ立つのも容易に出来る。そういった男の記憶を引き込むには、気長に行くしかないのかもしれない。せっかちなアスカには到底無理ということだ。
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