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縁に置く尻を?

「……だな」  アスカは納得して独りごちた。思考が読み取れるという能力なら、少しは気長に付き合えた気がしなでもない。記憶を意識内に取り込んで会話を聞くというところに悩ましさを思う。一人の主観的な思いを知るのと、二人以上の客観的な事実を聞かされるのとでは、気付かれた時の言い訳が倍以上に膨れるからだ。  それも今までは、ヌシを含めて精霊といった媒質の身勝手さによって引き起こされて来た。気持ちを無視されてのことだと釈明も可能だ。自力となればそうした逃げを打てなくなる。しかも無意識だったからなのか、時間と空間の狭間で起こせてもいなかった。悠久の時を生きる彼らと比較して、高々十八年のアスカが拙劣となるのは当然だが、気付かれる不安は付きまとう。 「けど……」  盗み聞きのようなその能力を極めたいとは思わない。アスカは男を見詰めるのをやめた。そして棺の縁に置く尻を心地良い位置へと動かしつつ、考え直すように腕を組んだ。

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