866 / 962
幾らも揃って?
アスカがわざとらしく腕を組んだ理由はただ一つ。完璧な無表情をし続ける男を戸惑わせる為にしたことだ。じっと見詰められていたかと思うと、唐突に視線を外され、考え込まれるように腕組みされては、アスカであっても気になるものだ。何を思ってそうしたのか、考えが推し量れない男にとっては尚更だろう。降って湧いたように現れた能力を、気付かれないよう誤魔化して、その上でちょいと試してみたといったところなのだから、量れるはずもない。完璧な無表情で押し隠そうが、男が苛立たしさに落ち着きをなくしているのは確かと言えた。
「……だろ?」
それを見定める為にもと、アスカは外した視線を再び男に戻し―――といっても、ちらりと投げ掛けた程度だが、たったそれだけのことでも十分に確信に至れた。男の思いを知る手掛かりは幾らも揃っているのだ。アスカには無表情に隠された機微な思いが見えてしまえる。今ここで必死になって能力に頼る必要はない。
ともだちにシェアしよう!

