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フジがした?
男には理不尽な話というのはわかっている。単なる推測でしかないことに確信を持たれては、たまったものではない。そうした時、アスカは怒鳴り付けてやるのだが、男は沈黙を貫く。その態度の違いが単なる推測を真実へと格上げさせてくれる訳だ。
「となりゃ……」
アスカは顔をにやつかせ、男の苛立つ胸のうちを思いながら思考を再開させた。
「ふふん」
男を思うと、自然と麗しい顔がアスカの頭に浮かんで来る。それで思い出したのは肖像画についてだ。子孫を名乗っているだけあって、青年の一族には男の肖像画が残されている。それを男は贋物と言い切った。似ても似つかないのなら、そこに描かれた顔が全くの別物であるのを、前世を知る青年にも理解出来ていたことになる。
「てか……」
アスカはふと気になった。こうしたおふざけを誰がしたのだろう。誰に出来たのか、そう考え直したことで閃いた。男を兄と呼んで慕った天下人に他ならない。つまりフジがしたのだ。
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