868 / 962

危険は潰して?

「あの野郎……」  フジは男を父親と慕う純粋で強烈な感情から変異を成功させた。その思いが兄と慕った過去に繋がるのかはわからない。しかし―――。 〝今生にて賜りましたご恩、死しても忘れは致しませぬ〟  それをヴァンパイアに変異することで叶えたのだと、アスカにはそう思えてならなかった。フジが〝ムチ姫〟に傾ける熱情も同じに思える。しもべに匹敵する熱意で、過去においての〝姉上様〟に絡み付いていたということだ。アスカにすれば、そのどちらも避けたい話に変わりないが、それでもフジの―――天下人がしたおふざけには理解が示せた。  男は真剣に女を愛し、その愛に呪われるかのようにヴァンパイアとして生きる道を選んだ。そこに悔いはないとしても、具象的な肖像画を残されるのは、何とも都合が悪い。美貌は目立つものだ。人里離れた山奥に隠れ棲んでいようが、いつどこで誰に目撃されるとも限らない。身バレする危険は潰しておいた方が生きやすい。

ともだちにシェアしよう!