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驚きに嘘は?

「ったくよ」  ヴァンパイアが個人情報の秘匿に熱を入れたのは当然だった訳だ。時代が変化した現代では、さらにその危険が増す。麗しい顔となると特に人目を引き、厄災にもなり得る。つまり青年にとって、『人間外種対策警備』の入り口での騒ぎは、渡りに船の出来事だった。本物と評判の魔女への興味に足を止めたことが、男を間近にする切っ掛けとなった。  青年も前世の記憶にある男の顔を目にし、無頓着を装う裏側で歓喜していたに違いない。その上で、アスカに声を掛けて来た。男が絡む相手が探し求める女なのかを見極める為にだ。 〝私には……〟  アルファの野太い声が脳裏に浮かぶ。青年の訪問が男との因縁にあるのかと聞いたアスカに、アルファはこう答えていた。 〝君といった感じに思えたけれど〟  それも当初はアスカを目的としたものではなかった。本物と評判の魔女が可愛らしい顔立ちの男子と知った時の驚きに嘘はなかったと、アスカにはわかっているからだ。

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