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承知で向かった?
不思議な感覚、それがアスカにはうまい言い回しに思えてならない。霊媒としての能力に絶大な自信を持つ青年にとって、失敗とはっきり口にするのは、経歴に汚点を残すようなことでもある。アルファ向けて興奮気味に話して聞かせたその真意も、本物と評判の魔女を―――アスカを女の生まれ変わりと認識し、謎掛けのような言い方ではぐらかしたといった意味になる。かつての主君と理解する男の出現を目にしたのだ。難なく導き出せたに違いない。
「クソがっ」
青年は失敗によって気付けた情報を示すことで矜持を保った。アスカには腹立たしい話だが、前世で繋がる女を無視することは出来ない。付き合うしかないと、そう思った瞬間、胸の奥深くにお馴染みの細く柔らかな声音を聞き取った。
〝……わたくしの〟
それは遠慮がちに胸に広がる。
〝偽りが……〟
そして悲しみと共に消え去り、あとを追うように男の言葉が浮かんだ。
〝御台は……騙されるを承知で向かったはず〟
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