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ぐいぐい行って?

〝わたくしの偽りが……〟  しつこく胸に響き残る悲しげな声は、アスカの思いをさらに虚しくして行く。〝偽り〟を犯したのはアスカではないのに、不条理にも、魂に内包する女の記憶がアスカを悩ます。しかも女は細く柔らかな声音を遠慮がちに響かせ、具体的な内容を教えようとはしない。虚しくなって当然だろう。 「ってもな」  これが霊媒としての能力によるものなら、幾らも探り出せていたはずだ。残念なことに、アスカにはそうした能力がない。『人間外種登録変更制度』に義務付けられている検査も、死者の声が聞けるという一点のみで通ったくらいだ。霊視や浄化といった通常の能力さえ持ち合わせていない。よって虚しさはいや増して、悶々とうずくまる。 「けど……」  女の記憶を内包する魂はアスカの魂でもある。切り離すことは出来ない。それに現世を楽しむと決めたのだ。霊媒には程遠い落ちこぼれの用なしだろうと、ぐいぐい行って、前世を慰めてやるしかない。

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