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甘さを増して?

「おいっ!」  アスカは苛立ち、咄嗟に怒鳴ってしまった。男に頭を寄せて話すアルファの態度に、一人置き去りにされたようで、むかついたからだ。そこは男にも同じと言えた。男は厳しい眼差しのままに、アスカを無視して、これまたアルファのふざけた調子の問い掛けに答えていた。 「いや」  その耳を酔わせる甘い声音を、風が怪しい山の頂上に生い茂る木々の隙間に運び去り、あたかも男の声音に悶えたような葉音を奏で、アスカに聞かせる。そうした風のちょっかいはいつものことだ。男も素知らぬ顔でアスカを見遣り、泰然と喋り出していた。 「人間種社会においても……」  つまり風にからかわれようが、アルファへの返答を続ける気でいる。それは男とアルファの肉欲にも匹敵する熱く激しい二人だけの世界の延長戦のようだ。会話であっても邪魔するなという示唆を込めての言動ともなる。そう思うアスカの耳に、男の甘い声音が甘さを増して、嫌みったらしく響いていた。

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