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気分がいい?
相手はモンスターだ。憎まれ口を叩いた程度で動じるはずがない。男は麗しい顔に笑いらしきものを貼り付けたまま、厳しい眼差しを揺るがしもせずに、アスカを眺め遣っている。いつもながらの業腹な態度だが、アスカにすればまだ我慢が出来る範囲ではあった。アルファはというと、母親似の可愛らしい顔立ちを気にするアスカを前に、剛毅な気性を思わせる唇をのったりと男臭くにやりとさせて、言い訳でしかない話を自己完結的に聞かせようとする。
「さっきのこいつの台詞、〝終わったか〟がね、君との暗語に聞こえたんだよ、それがどうにも寂しくて……」
だから何という憤怒を、アスカが顔に見せたからだろう。アルファは男に寄せていた頭をさらに近付け、人狼らしい仲間意識で甘えるように話を継ぐ。
「だけれど、こいつが説明してくれたし、寂しくなくなった」
そしてややもすれば野太い声音が間抜けになりがちな優しさでもって、こう続けた。
「うん、気分がいい」
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