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変化形なのだ?

 アスカはこの時、呆気に取られていた。野性味溢れる人狼にしては物柔らかな喋りをすると思っていたが、アルファの口調はそうしたアスカの思いを軽く超えていた。確かに野太い声音に嫌らしさはない。幼さと紙一重の間抜けさをも感じさせる。しかし、そこに漂う優しさが何とも奇抜で、アスカを苛立たせた。説教されている訳でもないのに、頭を垂れて聞き入らされてしまうのだ。 「君はね、多分……」  アスカの独り言が精霊達との付き合いによって派生した癖と知り得たことが、アルファの気分を良くしたからといって、アスカには喜びとはならない。むしろむかつきが増すばかりだ。というのに、アスカの人間種社会での様子を推測し始めたその口調は、まさに人畜無害な可愛さで、正義を思わせた。 「精霊の喋りに聞こえないふりをした、だけれど……」  そこでアスカは理解した。これは沈黙する男と甘えるアルファの心理戦であり、二人だけの世界の変化形なのだ―――と。

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