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悪い癖だぞ?
「クソがっ」
それなのにアスカが独り言に込めた思いのままにアルファを睨み付けようが、楽しげに響く野太い声音が風に乗って周囲を騒がせる。
「私には精霊が……」
当然、黄金色の色彩を微かに散らす黒に近い茶色の瞳はアスカに定まっていたが、声音は可愛らしく傾けた頭と共に男へと向けられていた。
「羨ましくてならないよ、あの子に構ってもらえるなんて、おまえもそう思うよね?」
その問い掛けに答えは返されなかった。男は最小限にした短い返答さえしようとしない。完璧な無表情を保ち、銀白色を帯びた錫色の瞳に厳しさを浮かべ、沈黙へと回帰した。というのにアルファは物柔らかな喋りに漂う間抜けな優しさに不満を加味して、普通に話をして行く。
「そうやってあの子にも強がるんだ」
そこにはアルファにしか聞こえない男の声があるのかもしれない。アルファは言葉にされない男の声を面白がるように、声音を弾ませ、こう続けていた。
「おまえの悪い癖だぞ」
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