902 / 962

喧嘩されて?

〝我らが殿は勇猛果敢なれども……〟  穏やかな調子に合わせてのことなのかもしれない。ヤヘヱの渋めな煌めきもまた、こればかりはどうしようもないといった感じにゆったりと、頭を振るかのように右に左にと揺れていた。 〝困ったことに幼きところがお有りでな、親子程も年の離れた小姓どもとも、力比べに相撲を取ったりしておられたわ、御台様にも同様での、とある池を何となしに指差して、あの池には魔物が棲んでいそうと口ずさまれた時など、ならば実否をただすと、池の水をことごとく抜いてしまわれての、小さき池なれど、大層な騒ぎになった、領民どもは握り飯持参で眺めておったぞ、じゃが、御台様にはな、魔物などおらぬのは承知のこと、殿に世の不思議はわかりますまいと、お怒りじゃったからの〟  そこでヤヘヱはにんまりしたかのように煌めきを大きくし、口調もくすくすと笑うような調子に変えて言った。 〝ほんに、些末なことでよう喧嘩されておられたわ〟

ともだちにシェアしよう!