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疲れるだけ?
「な……んだって?」
〝ふにゅ、ふにゅ、ふにゅぅ〟
アスカにも〝御台と我らが殿〟までは聞き取れていた。その後はさっぱりだが、それでもヤヘヱが昔を懐かしんでいるのはわかっていた。酔っ払いのそれらしい奇妙な笑いを最後に、肩先で寝込まれてしまっては、そうとしか思いようがない。曲がりなりにも精霊なのだから、寝るといった概念があるはずもないのだが、煌めきを薄紅色に色付かせて、こくりこくりと舟を漕ぐようなその様子が、アスカを確信へと向かわせた。
「ったく……」
この時、既に別荘の裏庭に着いていた。忌々しいがヤヘヱに関しては諦めるより他ない。そう思ったが、ふと頭をよぎった別の思いに、どうでも良くなる。
「俺、行き先、言ってねぇぞ」
つまり闇に心を読まれたということだ。精霊とはそうしたものと理解するアスカにすれば、ここで咎めても疲れるだけとなる。今は話を付けるのが先だ。アスカは素知らぬ顔で裏庭を通り抜けることにした。
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