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片端にどかっと?
ヌシに襲い掛かられないことは、アスカを今更のように安心させた。男の糧であるのを示すキスマーク―――ヴァンパイアにしか見えないという紋章を首筋に持っているのだ。その紋章がある者に、ヌシといえども手出しは出来ない。仲間内の掟というが、頂点に立つヌシも例外でないのだから、肉体的には危険がないことになる。となると単に話をしに来ただけなのがわかる。それで先に着替えようかとも思ったが、フードを払って美貌を露わにしたヌシの洗練された仕草にむかついて、やめることにした。
着古したよれよれが煌びやかなロゴ入りスウェットに位負けするのを恐れてではない。ヌシの訪問を少しでも短くしたかったからだ。それに話し合うというのなら、仕事着であるロングドレスの方が断然落ち着く。難を言えば太股辺りまで裂けていることだ。
「となりゃ……」
アスカはマントを体全体に巻き付けるようにして、ヌシと反対側の片端にどかっと勢い付けて腰掛けた。
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