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笑ってみせて?
「……で?」
その上で、挨拶や前置きもなしに簡潔に切り込んだアスカがヌシには驚きだったようだ。微かに見開く瞳でアスカを見遣る。ところが肩先で眠りこけるヤヘヱに気付くと、すぐに疎ましげに目を細めていた。この別荘が精霊達の溜まり場であるからには、ヤヘヱを嫌がるのはお門違いというものだ。それでもヌシを警戒して息を潜める精霊達と引き比べれば、アスカの肩先で平然と居眠りするようなヤヘヱは邪魔臭くあるはずだ。その八つ当たりとでもいうのか、ヌシは口元を歪めて、こう言った。
「お兄さんって、ホント、せっかちだね」
「そりゃな、あんたら相手じゃ、俺なんて老い先短ぇ爺さんとおんなじよ、せっかちにもなるってもんだろ」
ヴァンパイアや人狼が得意とすると幻惑がアスカには効かない。そこを思い出したのだろう。ヌシはこの世で唯一惑わせない者への賛辞であるかのように、アスカの皮肉めいた返しにも美少年らしい明るさで笑ってみせていた。
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