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お兄さんには?
「わかってないなぁ」
明るさを残す口調で返すヌシには、軽く誤魔化しに掛かる人間のそれと同じ匂いがする。
「でも、いいや」
そうした他愛なさを見せるヌシの気持ちが、アスカには推し量れない。仲間の変異者なら、痛め付けられている場面だ。その苦しみの感情がヌシを―――チヲカテトスルモノを楽しませる。恨みや妬みといった負の感情で変異した者にとって耐えがたい苦痛であり、愛という正の感情で変異した男も変わらない。精霊の寵愛が枷となったところもあるようで、無理難題を押し付けられても誠実に対処するより他ない。
「てか……」
変態屋敷の応接室で、そこを真面目とからかったヌシを、アスカはからかい返した。ヌシは女を持ち出して、淑やかだの儚げだのと嫌みったらしく応酬するも、それさえさらりと流されると、我がままな子供に戻って不貞腐れた。そしてこの台詞でアスカを面食らわせたのだ。
〝キイは僕のもの、お兄さんには絶対に渡さないから〟
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