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筒抜けとも?
「あの子が願うのなら」
本意は別として、全てはアルファの為というのだろう。
「叶えてあげるしかないんだよ」
要するにアルファが青年を利用するのは構わないが、その逆は許さないということだ。そこにヌシ本人の願いはない。そのせいか、ヌシが口調に滲ませる冷たさが心持ち弱まった。代わりに僅かな苛立ちを込めて続けていた。
「僕はあの子に勝てないから」
「へぇ、そう?」
肉弾戦においても精神戦においても、勝ちに行く気がヌシにはない。アルファが願えばそれで済む話だったのだ。なのに男を誘い入れ、クソったれオヤジで仲良し二人組を結成し、怪しい山の頂上にアスカを運ばせた。精霊さえ味方にしたのなら、浄化も不可能な死者の魂をまったき闇に落とせるアスカの能力で十分と考えたからだ。それを男がこう表現した。
〝我らには踏み込めぬ領域ぞ、精霊の覚えめでたき君にのみ許されておる故に〟
ヌシに気付かれないよう進めた話が、筒抜けとも知らずにだ。
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