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美少年にはない?
「それもね」
ヌシに言わせると、ほんの最初だけということになる。
「チヲカテトスルモノの祖は、つまんなくなったんだ」
人間の悲喜こもごもとした多彩な感情に触れるうち、感情だけでなく、熱く滾る生命の息吹も欲するようになった。純粋で激しい感情こそが生命の源と信じ、そういった感情に悩み苦しむ人間を選び出し、唯一の心願と引き換えに、肉体に宿るのを受け入れさせた。しかし、事の善悪を無視したせいなのか、予期しない変化が現れた。人間の血を糧に生きるヴァンパイア―――チヲカテトスルモノに変異してしまったのだ。
「そいつが僕の先輩、仲間を増やして、人間との戦いを起こした阿呆だよ」
馬鹿にしたヌシの口調には、身のうちに宿すチヲカテトスルモノの祖の思いもあるようだ。その阿呆が輪廻から外れた魂を大量に浮遊させなければ、まったき闇も生み出されなかったと、そう語るヌシの顔付きは冷徹で、十代半ばの美少年にはない老獪さを思わせた。
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