938 / 962
言わねぇのさ?
「お兄さんって……」
ヌシにとって、アスカを揶揄する機会は貴重なのだろう。話は終わったと、立ち上がっているのだ。アスカに何を言われようが、そのまま瞬間移動ですっと消え去っても良かった。それなのにアスカと向き合い、奇妙奇天烈な生き物というかのように、嫌悪と称賛をないまぜにした口調で言葉を返して来る。
「ホント、面白いよね、僕じゃなくて、毎日世話してるあいつらに聞けばいいのに」
そう続けたヌシが口にした〝あいつら〟が何者なのかは聞き返すまでもないことだ。
「世話、してねぇし」
「そうなの?」
憤然と返したアスカにも、ヌシは微笑みを崩さない。おかしくてたまらないといった様子で、口調にも笑いが滲む。
「だけど、今だって遠巻きにして、喋りたそうにうずうずしてるよね」
ヌシの言い分は正しいが、正しさに従う義理がアスカにはない。それで皮肉交じりに答えてやることにした。
「あいつらはな、俺にはよ、肝腎なこたぁ言わねぇのさ」
ともだちにシェアしよう!

