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そこにヌシの姿を?

「うん、だね」  ヌシは微笑みを大きくし、全て承知というように頷いた。微笑みが嘲笑であるのは明らかだが、馬鹿にされたからといって、むかつくままに怒鳴り散らすようなアスカではない。瞬間移動というヴァンパイアの得意技を使われても困る。足を止めさせた意味がなくなる。ヌシは見た目通りのクソガキでいるのだ。こちらは大人の様相で軽く受け流すのが得策と、アスカには思えた。 「……っう訳でよ」  アスカは僅かに声音を低くして、横道に逸れた話を戻すつもりで問い直した。 「場所、どこ?」  ヌシはすぐには答えなかった。可愛らしさを全開にして微笑み、アスカの思いを見透かしたかのように、ゆったりした足取りで歩き出す。そして歩きながら答えていた。 「足元、見てみたら?」  つい言葉に従って、アスカは床を見遣ってしまった。それが間違っていた。視線を上げた時、そこにヌシの姿を見ることはなかった。やられたと、悔しがったところで、時既に遅しだ。

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