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苦労してんだな?

「ったくよ」  アスカはむすっと呟いた。本当のところ、考えをまとめたい思いから、半分はヌシに逃げられたことへの八つ当たりでもあるが、静かにしろと怒鳴り付けてやりたかった。そうしなかったのは、はしゃぎまくる精霊達のろくでもない噂の中に、チヲカテトスルモノの祖をより深く知れる内容が含まれているような気がしないでもないからだ。 〝ドキドキしちゃった〟 〝た、た、たぁ〟 〝マジ、緊張だよ〟 〝よ、よ、よっ〟 〝一緒にいた頃、たくさん話し掛けてあげたのに、ぶすっとするばっかりで〟 〝で、で、でぇ〟 〝アスカみたいに怒鳴ってくれたら、楽しいのにね〟 〝ね、ね、ねぇ〟 〝カッコ付けちゃってさ〟 〝さ、さ、さっ〟  ここでアスカの顔が引きつった。精霊達の声を聞くにつけ、まさかヌシに―――チヲカテトスルモノの祖に、親近感をいだくことになるとは、さすがにアスカも思わなかった。 「てか……」  お陰で素直な思いが口に出た。 「結構苦労してんだな」

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