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何も変わらない?

「けど……」  アスカは青年に聞き取られないよう喉の奥で小さく呟き、思っていた。僅かな身長差でマウントを取られでもしたのなら、癪に障る。よれよれスウェットにぼさぼさな髪といっただらしない風体も気に掛かる。それで青年に見下ろされないよう少し下がって、本業のイメージ保持の為にもと、こう言った。 「悪りぃ、休みでさ、占い師はいねぇんだよ」 「それは残念」  青年は笑みを大きくして答えていた。そしてアスカをさらに下がらせようというかのように一歩前に進み出て、胸焼けしそうなくらいに甘い声音で疑問を口にする。 「ならね、君は何者?」 「俺は……」  その答えは咄嗟に思い付いていたが、アスカはわざと少し間を空けた。そうしたあとで、にやりとしながら言葉を繋げた。 「留守番さ」  実際、魔女と呼ばれる占い師は仕事専用の存在だ。休日のアスカは人間種社会で暮らしていた頃と何も変わらない。まさに留守番といった気軽さで自堕落に過ごしている。

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