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せわしなく頭を?

「ふふん」  アスカは胸のうちで得意げに笑った。青年に押されるようにして下がったのは、敢えてそうしたに過ぎない。まったき闇が別荘の下にあると知っての行動だ。笑いもしよう。母親似の女顔も奏功したようで、恨めしく思うが、それも良しとする。結果、青年を大胆にした。人気ゲームの女主人公に似た可愛らしい顔立ちに、男がヴァンパイアに変異してまで守った女を重ね合わせたのは間違いない。 「あの日……」  青年は数百年も過去の出来事を、苦渋に満ちた口調で昨日のことのように話し出していた。 「紳士的とは言えない態度だったのは、僕も認めるよ、あの方の居場所を吐かないそれにカッとして、死なせてしまったからね、だけど心の隅では興奮していたんだよ、ああ、これできっと、あの方が復讐の鬼となって、僕の前に現れるはず、とね、なのに……」  男が現れなかったのを口にしたくなかったのだろう。青年はせわしなく頭を振って、無念さを言葉にしていた。

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