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傍観者でいた?
出自を言うのなら、青年の前世である謀反を起こした家臣も同じと、アスカには思えた。家臣が男の側近になれたのは、滅ぼされた領国の領主の血筋に当たるとして、その直系である女を頼ったことによる。そこに嘘があったのだ。辺境へと追い遣られようが文句は言えない。男にしても、家臣の能力を信じての判断であり、再び側近へと這い上ってこそ、周囲を納得させられもする。
〝あ……やつ〟
その声がアスカの時間を僅かに止めた。
〝御台様の血筋というは、赤嘘ぞ〟
同時に、意識に響いた声音がヌシのものというのも感知した。ヌシは青年が言葉にした〝下賎な奴ら〟を駒にして、謀反を起こした家臣を追い込もうとした。男を気に入り、仲間にする為の一石を投じたのだ。
それもヌシには事実を伝えたに過ぎないとなる。実際、他に何も手出しをしていない。自然界の精霊ではないが、迫り来る炎の中、男に変異を誘い掛けるまで、傍観者でいたのがアスカにもわかっている。
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