959 / 962

迷わずに行った?

「ぞっとす……」  語尾を強めた青年の声音がアスカの耳を刺激する。 「……るよ」  それに合わせて僅かに止まった時間も動き出す。見ると、青年は芝居じみた仕草で体を震わせていた。 「あの方に……」  男に、それでも死ねば会える喜びに、死への恐怖も消し去られたと、そう続けた時の口調は腹立たしげに掠れていた。それもそのはずだ。男は女を愛する純粋な感情でもってヴァンパイアに変異し、魂をその身のうちに冷凍保存させたような状態で、人の世の暮らしに紛れて生き永らえていた。時代が変化した現代に転生したことで、ヴァンパイアとして永生していたのを知ったようでも、そこへ至った内情について、家臣の魂に理解出来る訳がない。 「っうと……」  アスカは呟き、軽く頷いた。謀反を起こした家臣の魂はその死に様に不満があっても、こうして青年に転生しているのだ。男を追うといった魂の意思でもって、行くべき場所へ迷わずに行ったのがこれではっきりとした。

ともだちにシェアしよう!