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胸の辺りに?
「僕に教示を願うのかな?」
「ああ……」
落ちこぼれの用なしと言われるだけのことはある。青年の思いはそういったところだろう。勝ち誇った口調の問い返しには侮蔑が込められていた。それが癇に障っても、アスカはおとなしく素直に頷いていた。
アスカの頭にあったのは、青年がアルファに向けて話していたことだった。男の小姓をしていた五人の魂を傷付けたというが、強制的に行くべき場所へと行かされた魂の惨めさは霊媒の気持ち次第で変容する。霊媒に慈悲がなかったとすれば、長い時間、現世の記憶に囚われ、手放せないままに苦しまされる。より高みを目指す魂の経験となるはずの来世の機会も巡って来ないのだ。
「ふふっ」
青年は素直に頷いたアスカに気を良くしたのか、優しげに微笑んだ。そして霊媒の能力によって得られた知識をひけらかそうというかのように、仰々しい仕草でアスカの胸の辺りに片手を振り、勿体付けた口調でこう答えた。
「それの、お陰さ」
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