980 / 986

偶然にしか?

「うるせっ」  小憎らしいながらも、美少年に見合ったヌシの可愛らしい声音は、暗闇の中、アスカのすぐ近くでふわふわと、まつわり付くかのように響いていた。つまりここがヌシにとって縄張りと言えるような場所であっても、さすがに実体までは移せないということだ。それがアスカにもわかって来る。 「現実じゃ、さ」  アスカは意識に響く声音に苛立ちつつ、言葉を繋いだ。 「時間が止まってんだな?」 「うん、そう」  ヌシは軽快に答えた。アスカの苛立ちを面白がり、ほんの少しの意地悪さを声音に浮かべて、楽しげに続けて行く。 「お兄さん、特別なモンスターでしょ、ていうか、まだ自覚してない?」  疑問形というのにはむかついたが、その言葉によって、まったき闇の開扉の鍵が床を何度も叩き遣ったこの足だったと、アスカは理解した。遥か昔にはアスカのような能力者がなしていたことだ。偶然にしか見えないことでも、馬鹿にしてはならない。そうアスカには思えた。

ともだちにシェアしよう!