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遠ざけようが?

「う……む」  男にすれば、ヌシが先に来ていたことは驚きだったに違いない。曖昧模糊に頷いたのも、そこにばつの悪さを感じたからと、アスカには思えた。しかもヌシが精霊との約束を自ら反故にし、秘中の秘をアスカに明かしたというのでは、ヌシの同族としても、精霊に愛される者としても、受け入れ難いのは確かなはずだ。 「ふふん」  アスカは得意げに鼻を鳴らして、その男の思いに応えてやった。すると男は渋々といった雰囲気で別荘に入り込んだあとの様子を口にして、話題のすり替えに勤しみ始めた。 「アルファを帯同し……」  肉の塊が幼子のように震える姿は、さぞかし滑稽だったことだろう。誰にでも苦手なものはある。人狼を率いて時代の変化を乗り切った強者のアルファであっても、人間として生きた記憶を持つのだから致し方ない。闇は人間であった頃のアルファの心に恐れを残した。その記憶を頭の隅に遠ざけようが、忘れ得ない恐怖としてこびり付いている。

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