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ありがたいこと?

 アスカには爆睡する自分の姿が見えていた。寝相の悪さには定評がある。枕を抱いてよだれを垂らし、無防備に片足をベッドから投げ出していたに違いない。子供ではないのだからと、母親には呆れられているが、男も同じ気分でいたはずと、アスカにはそう思えてならなかった。それでも跳ね起きた時に目にした男の様子は楽しげで、ヴァンパイア特有の自制心に満ち満ちた厳しさを感じさせないでいた。アスカを見返す瞳の輝きにも、からかい半分といった喜びの感情を窺わせた。ところがそうした明るさも、アスカが問い掛けたことで遠のけられた。ヴァンパイアを自覚し、完璧な無表情に戻そうとしたのではない。むしろ表情に感情がいや増したと言えていた。男は悠々と考え込んだあと、不満げな顔付きをしてみせ、こう返して来たのだ。 「他人……とな」  その僅かに低めた声音のままに、皮肉っぽく、感情が隠せないのを笑うような調子で続けていた。 「ありがたいことよの」

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