1050 / 1054

すぐ後ろ辺りに?

 背を向けていたせいもあるのだろう。アスカの中では、男は今も椅子に腰掛けていることになっていた。アスカがベッドから立ち上がった時にも、椅子に載せた尻を上げようという気配を微塵も見せず、これぞヴァンパイアといった状態のままに、組んでいる足の爪先まで、秀美な彫像の如くに固まっていた。アスカにしても、怒れる母親の相手をするのだ。男には遠慮して欲しい。部屋にいてもらえるのなら、それに越したことはなかった。 「となりゃ……」  アスカは喜びを気取られないよう声音を低めて、それでもモンスター居住区解放反対派万々歳といった気分で言葉を繋げた。 「……なりゃ、俺とあんたにゃ出番はねぇ、『人間外種対策警備』があんだしよ、ぽっと出の俺らより、そっちを頼んじゃね?」 「案ずるな」  そのアソコをぴくりとさせずに置かない美声は、アスカがドアノブに手を伸ばしたと同時に、わざとらしく艶やかに耳のすぐ後ろ辺りに響かされていたのだった。

ともだちにシェアしよう!