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第3話 山の話3

人里に返すと言ってもどうしたらいいか……。そのままぽんと置いてくりゃすむんだが、どうにも心配だったんだ。そいでさ、山の中腹辺りに、昔の隠れ里があってさ、そこに世捨て人みたいにして住んでるヒトのばあさんがいたのよ。 なんでばあさんがそこに住んでるのかとか、いつからいるんだとか、おいら達は知らなかったけど……ばあさんはおいらたちを怖がらないし、またいろんな薬の作り方なんかを知ってたもんで、他の妖怪連中にも取って喰われたりせずに、重宝がられて、あと結構慕われてそこにいたんだ。だからおいら達はそのばあさんに相談してみる事にした。 隠れ里に近付いてから、くまちゃんは走るのは早いけど、地響きがひどいもんで、ゆっくり来てもらうことにして、ぎいちゃんがカエデを背中へ乗せてばあさんのとこまで駆けた。おいらは空を飛んで行った。カエデはこんな遠出は初めてだったから、疲れてぎいちゃんの背中で眠っていた。そうしてやっと着いたんだけど、ばあさんはぎいちゃんを見てびっくりし、ついで眠ってるカエデを見てびっくりした。おいらのことはもう知ってるから驚かなかったけど。そいで、後から現われたくまちゃんを見たらもっとびっくりした。くまちゃんやぎいちゃんみたいな大きい妖怪はもうここらには残ってないと思ってたんだって。 そいでおいらたちはばあさんにカエデのことを相談した。そしたら、ここに、月に一度、ばあさんの必要な物を届けに来てくれる山男がいるから、その人にカエデを連れて行ってもらえばいいという事になった。そうすりゃその人が、人里でカエデの面倒を見る人を見つけてくれるだろうから、って。 ばあさんはおいらたちに、カエデにはこれまでの記憶がなくなる薬を作って、山男が来るまでに少しずつ飲ませるから、段々おいらたちのことは忘れるだろうと話してくれた。そうして人里で新しい棲み処を見つけて、そこでちゃんと生きていけるだろうって言ってくれたから、おいらたちもやっと安心してばあさんにカエデを託して行く気になれた。 別れ際、みんなで代わる代わるカエデを抱きしめた。カエデは目を覚まして笑ってた。もう会えないってわかってなかったんだろうね。 そんな風にしてカエデと別れて……暫くおいらたちはぼんやりしていた。 あのちっちゃいのがいなくなっただけで、棲み処が急にしんとしちゃって、寂しくてたまらなかった。 初めのうち、おいらは何度も、ばあさんのとこへ飛んで行ってみようかと思ったけど、そんなことしたら カエデを連れて帰ってきちゃいそうだったから我慢していた。 じきにカエデのことは――けして忘れはしなかったけど、最初みたいに寂しくってみんなでただぼうっと座り込んでるなんてことはなくなって、だんだんカエデのことも普通に話せるようになった。いなくなってすぐは、誰かがカエデ、って言いかけただけで残りのふたりにぎろっと睨まれたもんだよ。思い出すのが辛かったんだな。 でも時間がたったら、もう山男が連れて行っただろう、今頃どこにどうしてるかなあ、とか、ちゃんと飯食ってるかなあ、とか、人里にはあの子の好きなやまぶどうはあるかなあ、とか、そんな風に時々みんなで言いあえるようになった。 そうして……何年もたったある日…… 突然、カエデが戻って来たんだ――

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