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第18話

後日泰孝は彼らに約束した通り、カエデが学校へ行くために必要な手続きを調べた。 以前カエデが人里に引き取られた時住んでいた町の役場に確認したところ、記録がそのまま残っていることがわかったので泰孝はそれらを取り寄せ、後見人を引き受けた。諸々の手続きが済めば、後は学校で行う編入試験を受け、それに合格すれば入学できるらしい。 「竣平、お前現役なんだから、カエデくんの勉強見てやれよ。転校する時お前も何科目か試験受けたろ?同じようなもんなんだろうから」 「ええ~!?自信ないなあ人に教えるのなんて……あ、そうだ」 竣平は思いついて瑞生に応援を頼む事にした。あいつは成績が良いから頼りにできるだろう――冬実の事件がきっかけで、瑞生と俊平は友達になったのだった。 翌日、さっそく俊平は学校で瑞生に頼んだ。 「そういうわけで……カエデに勉強教える事になっちゃって。だから瑞生、手伝ってくんねえかなあ……?」 「うん、いいよ。俺で良ければ手伝うよ」 「助かったー!瑞生が教えてくれたら安心だよ!俺苦手科目多いんだよね……多いっつうか、殆ど苦手なんだけどさあ」 竣平は胸を撫で下ろした。 それから――竣平達は祖父母の家に放課後寄らせてもらい、そこでカエデの編入試験の準備を手伝う事になった。 やってみると教えるのは案外面白く、俊平自身にも役立った――カエデ本人にやる気があるため感化されたのかもしれない。 妖怪達は勉強している三人を覗きに来たりして大概辺りをうろうろしていたのだが、そのうち、どこかへ出かけて姿を消している事が多くなった。が、竣平達は試験準備で忙しかったので、彼らが何をしているのかあまり気にする暇はなかった。 やがて試験の日取りが決まり、カエデが学校へやってきた。休み時間だった竣平が教室の窓から外を見ると、ちょうどカエデとともに皆がぞろぞろとやって来た所だった。 「みんなで来たんだ?」 瑞生と一緒に彼らを昇降口まで迎えに出た峻平は笑った。保護者総出で、まるで小学校新一年生の入学式だ。 「来なくていいって言ったんだけど……学校見てみたいって……」 カエデが困ったように笑う。 「父さんも来たの?」 泰孝も一緒にいた。 「うん。なんか必要な手続きあるかなと思って」 そう言ってから声をひそめて続ける。 「このヒトたちじゃそういうのは無理だからな」 「ああ……そうだね」 竣平は納得して頷いた。 他にも一人転入するための試験を受ける学生がおり、その子とともにカエデは会場になっている空き教室に入って行った。それを見送る瑞生がつぶやく。 「カエデくん試験は絶対受かると思うから……あとは、同じクラスになれたらいいよな」 「同じクラス?」 やぎが尋ねた。 「うん。クラスが一緒なら同じ教室で授業受けられるしね」 「なるほど……坊ちゃんらといつも一緒にいられるのか。じゃあ、そうしよう」 「は?」 そうしようって?竣平がぽかんとしていると、やぎはすたすたと校舎から出て行ってしまった。 「ぎいちゃんどこ行ったの……?」 とんびが答える。 「氏神様にお願いしに行ったんだよ」 「え!?それで……できんの?」 「うん。ま、そんくらいのズルは、カエデも怒らねえだろ」 「ズル?え、じゃあひょっとして、試験なんかわざわざ受けなくってもそれも神様に頼めばよかったんじゃ……?」 瑞生が尋ねると、くまが説明した。 「それはカエデがやだって言った。自分で受かりたいからって」 泰孝は感心して息子に言った。 「偉いなあ、しっかりしてる。竣平、見習えよ?」 竣平は思わず苦笑した。 「なんで俺が説教されんのさ……」 予想通りカエデは無事合格し……制服も購入した。いろいろな資金はとんび達がどこからか調達してくる。 そうしてカエデが学校に通いだすと……はたして竣平達と同じクラスになった。 「ははあ……やるもんだな、氏神様ってのも」 シャーペンを鼻の下に挟んで竣平が呟いていると、すぐ前の席に座っているカエデがこちらを振り返った。 「え?氏神様が、どうしたの?」 「ん?なんでもね」 竣平はカエデに笑って答えた。

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