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第13話(クリス)
ドサっ
僕のオフィスのソファーへ乱暴に降ろされた。
「痛たたたた」
「次に俺の背中にゲロ吐いたら殺す」
「仕方ないだろ、僕は現場向きじゃないんだよ」
マイヤーズはイライラしながらオフィスを出ていった。
それより、ライリーだ。さっき泣いてた。
何があったのかな?
様子を見に行きたいが腰は抜けてる上に吐瀉物で汚れている。
心配だ。大丈夫かな。看護師のホップスなら何があったか知らないかな。
シャワーを浴びたら聞きにいこう!
そう決意していると開けたままになっていたドアがノックされた。
「グラスゴー博士、ちょっと良いかな?」
ハワード支部長だ。
「はい、大丈夫ですよ」
「今朝、aチームと一緒に現場に出たと聞いて様子を見に来た」
「ああ、大丈夫です」
「しかし、マイヤーズから嘔吐したと聞いてる」
「大丈夫ですから、本当に」
彼はニューヨーク支部の支部長。ウィリアム•ハワードだ。
そして僕の命の恩人。僕を12歳で保護してくれた人だ。今でも彼は僕の保護者気分でいる。
「心配なんだよ。クリス」
僕は6歳で両親を殺された。
その後はWIA関連の福祉施設に入り、数年後に里子へと出された。
僕の最初の里親はマンリス夫妻、次はトラビス夫妻と変わり最後に行き着いたのがヘンリク夫妻。
元軍人で警備員の仕事をするジョンと専業主婦の妻ドット。
そして12歳まで僕は悪魔のようなこのヘンリク夫妻の元で育った。
家はまるでゴミ屋敷。掃除や洗濯は僕の仕事だし、食事は1日1回。食事がドッグフードだった事もある。
学校は公立になんとか通っていたけれど、僕は6歳までギフテッドクラスにいた天才だ。
もっと高度な勉強がしたかったけど、彼らは本を買う事さえ許してはくれなかった。
学校でも僕はクラスメイトや、下手したら教師も理解できないような化学式の話や数学の話をする変人。学校にも家にも居場所は無い。
日常的にある理不尽な暴力。
そして遂に、ジョンから性的な虐待を受けるようになった。身体や性器を触られるようになり12歳の僕は我慢の限界を感じて死のうと決心した。
パパとママの側でゆっくり眠りたかった。
明日はやろうと思っていた時、夢を見たんだ。
両親の葬儀の時の夢だった。
そして、僕は両親の葬儀で知り合ったWIAのエージェント·ハワードから困ったら連絡するようにと電話番号が書かれた名刺を貰っていたのを思い出した。
名刺は無くしてしまっていたけれど、僕の脳内には電話番号の記憶がちゃんと残っていた。
そして最悪な里親から救い出してくれたのがハワードだ。
僕が決死の思いで小銭をヘンリク夫妻から盗んで公衆電話から電話した。
「あ、、、あの、、、」
何を言えば良いかわからなかった。
「迎えに行くから、君はそこから動かないで」
ハワードは何も聞かずすぐに駆けつけて、そのまま地獄から連れ出してくれたのだ。
「もっと早く、君を迎えに来るべきだった」
痩せこけて、ぼろぼろの服を着た、小汚い僕を涙を流しながら抱き締めてくれた。
ハワードにとって僕はまだあの頃の子供のままなんだろう。
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