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第4話

「またやったのか。」  早朝。また俺はこうして風紀室にこいつとふたりっきりでいる。 「ごめんって。」  まるで自分の家かのようにくつろいでいる結城の前に原稿用紙をたたきつける。 「はい、反省文。」 「ええー!前は何もなかったじゃんか。」 「仏の顔は三度までっていうだろ。これで三度目だ。」  ブツブツ言いながらも結城は原稿用紙を手に取る。  違反を犯したのはこれで3度目だが、結城が風紀室に来たのは10回は優に超えている。  よくわからないが、ここを気に入っているらしい。 「書き終わるまで解放できないからな。」 「いいんちょは?」 「お前が書き終わるまでここで待つよ。」 「じゃあ頑張る!」  そう言って結城は反省文に手をつけ出す。しかし、5分もたたないうちに手が止まった。 「もうむり。」 「まだ一枚目なんだけど。」 「だって書くことが思いつかないもーん。」  シャープペンを持っていた手はピアスをいじり始める。  今日、結城の右耳には5つのピアスがついていた。 「結城っていくつあけてるの?」 「ピアス?右は三連と、上に一つと、軟骨1つで五つ!左は三連だけだよ!」  一つずつ指を差しながら、丁寧に教えてくれる。 「あと右の鎖骨にも、チェストピアスっていうんだよ。」  結城はニンマリと八重歯を見せて自慢げに話してくる。さながら、小さい子供のようだった。   「いいから早く書け。」  しぶしぶシャープペンを持って、再び書き始める。 「いいんちょはひとつも開けてないの?」 「ああ。」 「髪は染めてるのに?」 「ああ。」 「なんで?」 「痛そうだから。」  それを聞いて勇気はまたニンマリと。 「いがーい。そんな理由なんだ。」 「悪いか。」 「むしろ好き。ピアスあけるのってそんなに痛くないよ。いいんちょ似合いそうだから空けてみたら?」  そう言われ、自分の右耳の耳たぶをスリっと触る。 「一応、風紀委員長になったんだから示しはつけないと。」 「そっか。残念。」  結城はそんなに俺にピアスを空けて欲しかったのかと疑問を感じた。 「いいんちょ、今日の放課後もいるの?」 「仕事でいるよ。」 「じゃあ今日も行こーっと。」 「そんなにここに入り浸るなら風紀に入れば?」 「えー、めんどくさそう。」 「じゃあ、」  ここに入り浸るな、と言おうとしたが、やめた。  結城が、眉を下げてこっちを見ていたから。 「まあ、邪魔しない程度にいろよ。」 「わかった、邪魔しない。」  さっきの顔はどこへやら、またニマニマとする。  書き終わった5枚の反省文は意外にもしっかりと書けていた。

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