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第5話
「ねえ、いいんちょってゲイなの?」
入り浸って半月は経っているだろうか。結城は突拍子もないことを尋ねてきた。
「仕事の邪魔をするなら追い出すぞ。」
結城は他の机のローラー付きのイスを勝手に拝借してきて、委員長机にいる俺の隣にいる。イスを反対に座って、背もたれに体重をかけたり緩めたりして、遊んでいた。
「あとそれだけじゃん。」
結城は椅子に座ったまま,こちらまでコロコロと近づいてきて書類をトントンと指差す。
半月ほどで俺の仕事を把握したらしい。
「で、ゲイなの?」
再度聞かれ、別に仕事を急ぐ量でもなければ、時間帯ではないと思い、筆を置いた。
「ああ、そうだけど?」
それを聞いて何をしたいという意味を含めて返す。
「へー、意外!ノンケだと思ってた!」
「そう見えるのか?」
「うん。だって、あまりここの生徒と話さないし。だれかと付き合ってるっていう噂も聞かないし。」
「まあ、今は誰とも付き合う気はないけどどな。」
「そうなの!?」
背もたれにさらに体重をかけてたおし、こちらに転げ落ちそうな勢いで聞いてきた。
「あ、ああ。」
「そんなんだ。へー。そうなんだ。」
それから結城はご満悦。イスのローラーでクルクルとおれの机の周りを回り始める。どうやらこれが聞きたかった返答らしい。
「ねえ、明日は委員会あるの?」
イスで遊ぶのに満足したのか俺の隣に戻ってきた結城が問いかけてきた。
「ないよ。1日オフ。」
「そっかじゃあ出掛けようかな。」
「外出届、ちゃんと出せよ。」
「はーい。」
「あ、ねえ!いいこと思いついた!じゃあさ!俺とデートしようよ。」
イスから突然立ち上がったかと思うと、いきなりそんなことを言い出した。
「は?」
「おれがいいんちょの分の外出届も出してあげるよ。」
そう言って、風紀室にある外出届の紙を2枚持ってくる。いつの間に、外出届の場所まで覚えたんだ。というか知っているならちゃんと書けよ。
俺の机からボールペンを拝借すると、すらすらと書き始めた。
「はい、書いたよ。これ出しとくね!」
ヒラヒラと見せつけると、風紀室の扉へ向かう。外出届は事務の人に提出しなければならない。
「じゃ、明日の10時に寮の前で待ち合わせね。」
扉から顔だけ出してそういうと、パタンと扉を閉じた。
「ずいぶん懐かれたもんだね。」
委員長机から少し離れた向かい合わせで6つ置かれている事務机。そこで、一部始終を見ていた葵が、俺の机にお茶を出してくれた。ありがとと一声言って、それを頂く。
「まったくな。」
「あの子、他の人たちにはあんな風じゃないんだよ。人との接触を避けているっていうか。」
それに関しては、風の噂で聞いたことがある。
「デート、楽しんできてね。」
飲んだお茶は苦かった。
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