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第22話

   警察署に出向き、聴取はすんなりと終わった。  葵が話を通してくれたのだろうか。葵の親は警察関係だ。  相手の措置も、しっかりと行ってくれるらしい。二度と顔を合わせることはないそうだ。  それからまた俺たちは、俺の寮部屋に戻ってきた。  ソファに座っている葵にお茶を渡し、隣にすわる。 「どこから話そうか。」  結城はしばらく黙った後、お茶を飲み心を落ち着かせていた。 「初めてじゃないって言ったよね?」 「うん。」 「俺、中学生の時に、誘拐されたことがあるんだ。」 「え?」  思わず自分が持っているグラスを落としそうになった。  「そんな顔しないでよ。今は大丈夫だからさ。」と言われたが、俺は今どんな顔をしているんだ? 「中学2年までは普通の学校通っててさ。誘拐されたと言っても、金目当てで、縛られただけ。」  「でも、」と結城は続ける。  机の一点を見つめて余計なことを考えないようにしている結城の背中を撫でる。 「大の男に囲まれて拘束されるって結構怖くてさ。男がトラウマになっちゃって。  でも親は俺の身の安全のためにここへ転入させられたんだよね。それはよかったって思ってるけど。  男がトラウマの俺にとっては辛くて。」 「でもさ、俺ゲイだから。」  結城がぽつりと呟く。その声は震えているようにも聞こえた。 「だ、からさ、結局男しか好きになれなくて。そんな自分が気持ち悪い、っていうか。」  俯いて震える結城に身を寄せる。 「それで、誤魔化すように外出して、女の人と会ってたんだ。」  こくんと結城がうなずく。 「でも、もう、ミカさんとは会えないな。」  少し落ち着いてから、次はミカさんについて話し始めた。 「ミカさんさ。道端で泣いてたんだ。だから話を聞いたらキャバクラ辞めたいって話をしてくれて。  本当は看護師になりたいってさ。  だから専門学校に行くためのお金を貯めるために枕仕事もやっているけど苦痛で仕方がないって。」 「キャバクラの友達とかお客さんには言えないから、誰にも言えなかったって。  それから俺がミカさんの話し相手になってた。俺の話も聞いてもらって。  別に俺は、ミカさんの弱みに漬け込んだつもりもなくて、体を重ねたこともない。」  話を聞いてて、お互いに恋愛感情はないんだろうと思った。 「ミカさんの他に会っている人は?」 「いない。」  結城は強く首を振った。 「一度に二人以上の女の人と関わることは避けてる。」 「でも、これ以上一緒にいたら、逆に迷惑かけちゃうよな。」  これには否定できなかった。次はミカさんに手を出すこともあるだろう。  結城は誠実だ。  自分のことよりも相手のことを先に考える。 「最後に一度くらい、会うのはいいと思うよ。」 「うん、そうする。」

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