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第28話

 電車に揺れながら俺たちは帰った。  席はガラガラなのに、隣で座るのも気まずく、立ったままでいた。  帰る際に会話はなかった。 「じゃ。おやすみ。」 「うん。」  寮について、やっとのことでそれだけの会話をして別れた。  「ちょっと、ちゃんと仕事してよ。」  葵に軽く叱られる。  あれから一週間が経ったが、結城は風紀室にきていない。いや、もう来ないだろう。  流石に葵には何かあったと勘ぐられているだろう。 「すまない。」 「仕事進まないなら、休憩する?取り調べ室、空いてるよ」  風紀室の一角には、暴れる奴を抑えるために鍵をかけられるテーブルと椅子が二脚置かれた取り調べ室がある。 「ありがとう。休憩する。」  ペンを置いて、取り調べ室の中に二人で入る。葵がコーヒーを持ってきてくれた。 「はあ。仕事進まないくらいに悩んでいるなら会いに行きなよ。なに?けんか?」  きっと言いにくいこともあるだろうと思って、葵はこの部屋に連れてきたのだろう。 「いや、違う。」 「じゃあ何?」 「結城に告白された。」 「…あー。」  俺の事象を良く知っている葵はすぐに何かを察する。 「それで?降ったの?」 「ああ。」

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