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第8話
今日の台本合わせはグダグタになりつつも、最後まで一通り終えた。
次は動きも加えてやるんだとか。
去年は大道具に務めていたから全然分からず進めている。
「俺、演技下手くそじゃない?」
隣でこちらを見ていた葵に声をかける。
「上手いよ。欠点一つもないのかってくらい。
それに、歌唱力で全てカバーできるでしょ。」
何故かため息をつかれる。
「どういうこと?」
「なんか習い事でもしてた?」
「習い事?バイオリンとピアノとかならしてた」
「あー、なんか、上流階級って感じだね、」
「葵だって、習い事してたでしょ」
「柔道とか、合気道、剣道って感じだよ、こっちは」
「あー…」
そういえば、葵の家は警察関係だったと思い出す。
「まあ、家柄じゃない?」
「そーだねー…」
そう言って、2人の目線は同じ方向に向く。
ツーブロの赤髪の男。身長は多分俺より上。
この学校の生徒会長だ。
「子役やってたもんね。」
「父が世界回ってるアーティストだし…」
あれこそ英才教育だろう。
去年は庶務にも関わらず、ほとんど主役に近い役をやっていた。
「あれとやるのかー」
そんなことを思いながら奴の後ろ姿を見ていると、ふいに振り向いてきたから目をそらす。
「…あのさー、いい加減仲良くしたら?」
「できるならやってる」
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