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第9話

 「はい、後はよろしく」  葵によって、最終確認の書類の山が出来上がっていく。  「ん、ありがと」  ひたすらに書類に目を通していく。  「何か手伝えることある?」  ソファに座っていた結城がこちらに寄ってくる。  「んー、ないかな」  「そっか」  それだけ言って戻るのかと思えば、俺の隣に椅子を引っ張ってくる。  指示待ちをするらしい。  「クラス、行ったら?」  「えー?」  「準備手伝ってきなよ。」   「本当に必要になったら行こうかな。」  行く気がなさそうな返答が来る。  「行きなよ。結城が執事やってくれたら喜ぶと思うけどな」  「圭太以外に喜ばれても嬉しくなーい!」  「じゃあ、俺が喜ぶって言ったら?」  椅子を動かして遊んでいた手が止まる。  「ほんと?」  「ほんと」  結城は目を彷徨わせた後、また椅子で遊び始める。  「俺が準備手伝ってもやり難いだけじゃない?」  「大丈夫」  そう言っても結城はまだ不安そう。  風紀の中には溶け込めているのに、クラスにはなかなか馴染めていない。  「風紀の子たちに、結城を嫌がった奴いた?」  「…いない」  「ほら、大丈夫だって」  しばらく黙り込んだ後、決心したように立ち上がる。  「俺、行ってくる。」  「うん、いってらっしゃい」  「お家帰ったら、おかえりなさいご主人様ってしてあげるね」  「うん、楽しみにしてる」  声は強気にみせているが、足取りは不安定なまま結城は出て行った。  着いていっても結城の為にならないから、今日は早く仕事を終わらせて、話を聞くことにした。

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