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その時は今
月日は経ち、仕事が忙しかった俺が産休に入ったのは、出産予定日の二週間前だった。
つわりの時期は、体重減少と貧血で三日ほど入院したものの、その後の経過は順調で、会社の同僚らのフォローが大きいが営業職を全うし、無事臨月を迎えていた。
うちの会社、なにげに出産育児に理解が深い。
手厚い福利厚生がありがたかった。
つわりが落ち着いて、職場復帰するという俺を心配がちに見守ってくれていた悠斗 くんは、腹が目立ち始める前に、妊夫用のマタニティスーツとマタニティワイシャツなるものを数点手に入れてくれた。
市販されてないそうで、首元のタグにはブランド名ではなく俺の名前が入ってる。
ストレッチの効いたスーツは非常に着心地のよいものだった。
臨月の腹でも収まる程のゆったり感なのに、産後に着ても違和感がないように要所要所にアジャスターやらの高機能が付いている。
これ妊娠した男性だけでなく、でっぷり太ったオッサンでも需要あるんじゃね?って思った。
結婚して名前は変わったものの、一人暮らしをしていた俺のアパートでの生活が続いており、悠斗 くんは不定期ではあるが通い夫で週の約半分は一緒に住んでいる。
本当はすぐ一緒に住むつもりだったのだけど、仕事の都合で悠斗 くんの一人暮らししてたところのほうが悠斗 くんには便利で、深夜まで仕事のある日は無理しないで欲しいと俺が言ったから。
産休となった頃からは、悠斗 くんが定時で仕事を終わらせ俺のアパートへ戻るようになっていた。
…………
「北條さん。予定日は今日でしたね、どうですか?何か兆候ありましたー?」
内診で人の股をグリグリしながらクリニックの医院長が聞いてくる。
物腰が柔らかくていい先生と思ったあの初診の医師がこのクリニックの医院長だった。
「ぅぅぅぅ…いえ、足の付け根が痛くて……歩きづらいんですけど、まだ前駆陣痛もなくて。……ぃ!いた!」
「ごめんごめん、まだ子宮口ガチガチだねぇー。初産は予定日超過はよくありますから大丈夫ですよ。一応今日は内診して子宮口が刺激されてますから、出血があると思います。あとお腹が張るかな…この張りが続けば本陣痛なんだけどね。推定体重が3000g超えてるからもう産まれた方が楽かなぁ……なんかあったらいつでも連絡くださいね。何もなければ次は四日後に来てください。」
「はぁい。」
悠斗 くんも一緒に来てくれてて、お腹の張る俺を優しくエスコートしてくれた。
………………
予定日に内診してもらい、陣痛がつくのを期待したのに、お腹は張るものの有効な陣痛とまでは至らず。
腹がデカくなりすぎて動きづらい俺は、もう早いとこ産まれてくれないもんかと少し焦れていたのかもしれない。
期待した四日後の受診も空振りに終わり。
次は三日後と言われ、三日後の内診でもグリグリっと医院長の指が俺の子宮口を刺激して、涙目で帰宅した。
この日は悠斗 くんも仕事があり、俺は時折張るお腹を抱えつつ、えっちらおっちら家までの道のりを歩いて帰った。
この夜、漸く待ちに待っていた陣痛が訪れた。
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