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入院……そして
んっふぅぅぅぅぅぅ…うんっ
はぁはぁはぁ。
なんか息も絶え絶えになっちゃって。
陣痛の間隔も15分と12分の間をうろうろ。
まだ自宅から出られない。
痛くない時は楽だろ……とか思うだろ?
違うんだよね。
腰はダルいし、色んなとこにチカラ入っちゃって筋肉痛やばいし、足がつったりするし。
つわりを思い出すような胸のムカつきもあって、満身創痍。
口は乾くから水分摂るだろ?
足は浮腫みまくるし、尿意はくるし。
汗かいて気持ち悪いし。でも動けない。
そろそろまたあの痛みが来ると思うと次の陣痛が始まるのは恐怖だし。
10分切ったら朝を待たずに病院行こうと思ってるのに、この時間の壁が憎い。
一睡もせず朝を迎えようとしてる。
悠斗 くんも同じ。腰も背中もずっと摩ってくれた。
近くに居てくれるだけで、安心するんだ。
ありがとう、悠斗 くん。
ごめんね、君も眠かろうに。
でも時は進んでいるわけで。
早朝4時を少し回った頃、漸く陣痛の間隔が10分を切るようになった。
痛みも声が出る程には強い。
病院のスタッフにも分かるように、陣痛が始まった時点で病院に電話をかけた。
『はい、中野クリニックです』
「……っん!北條です!……っくはっ!陣痛10分切ってます!……っはぁぁぁ!」
俺のスマホを優しくもぎ取り、悠斗 くんが話し出す。
「すみません、優一さんの夫の悠斗 です。優一さん、かなり辛そうなんでお電話変わりました。来院していいですか?」
『だいぶキツそうですね。来院お待ちしてます。気をつけていらしてくださいね。夜間外来のインターホンを鳴らしてくれたらすぐ解錠しますから。』
「わかりました。クルマで向かいますので準備も合わせて30分後には行けると思います。宜しくお願い致します。失礼します。」
………………
駐車場でクルマに乗り込む寸前陣痛を逃し、せっかく乗り込んだものの母子手帳の入った俺の鞄を忘れたのに気づき、悠斗 くんに自宅まで戻らせちゃった。
すまん!
移動の最中もクルマの振動で誘発されたのか、これまた今までで一番の痛い陣痛がくる。
シートベルトを握り締めるように引っ張って身を捩る。
汗が滴る。
キッカリ10分間隔で病院までキツい陣痛が続く。
電話をして30分後には病院のインターホンを鳴らしていた。
さすが悠斗 くん。
普段なら15分程で行けるところを陣痛逃しつつの倍はかかると踏んでたんだな。
悠斗 くんが夜間外来のインターホンを押すと、スタッフの人が直ぐに解錠して迎え入れてくれた。
いつもの診察室とは反対方向にある棟に通され、個室で荷物を置き、スタッフから渡された病院着に着替える。
この個室が陣痛から出産迄を過ごす場所。
トイレも簡易のシャワーもあり、大きなソファや病院らしくない大きなベッドがあってリラックスできそうな部屋だ。
トイレに行きたくなり、個室の中のトイレに立つ。
用を足そうと下着を下ろそうとしたところで陣痛の波に捕まる。
お腹全体が鷲掴みされたように締め上げられる。
「ぐわっっっ……ぅぅぅぅ」
カギはかけずに入ったので、声を聞きつけ悠斗 くんがすぐに駆け寄ってくれた。
い、いや、トイレは入ってこないでよ……とも思ったが、それどころじゃなくなってきた。
もう涙目だ。
腹のデカい妊夫で立ちションなんてできるはずもなく、静かに座って用を足す。
痛みで萎縮しまくってる俺のモノは妊夫の腹で見えないが、相当にこぢんまりしてるのだろうな。
横には心配そうな悠斗 くん。
もう独りにしてくれない。
一緒に手を洗って、トイレから小脇に抱えられる形で出てきたところで助産師さんがきた。
もうかなり腰にきてる俺は、軽く前かがみの変な姿勢で歩きづらい。
悠斗 くんが脇からがっしり支えてくれてるから安心して身を委ねる。
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