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入院……そして(3)

悠斗(はると)くんがスタッフさんばりにリードしてくれる。 でもね、この頃から記憶も曖昧になる程に、陣痛の波が大きく津波のように押し寄せるようになっていた。 16時30分、入院して12時間。 子宮口は8cm。 痛みも強く、息みたい感じが上回り、抑えの効かない身体は震え出した。 昼に少しだけ口にした昼食のデザートのプリンが、陣痛の痛さで口をついてこみ上げてきた。 ベッドから転げ落ちる勢いで、トイレに駆け込み嘔吐した。 悠斗くんは、俺の今まで見たことない程の駆け込み方に、口を開けて驚いていたのがチラリと見た目の端に見えたが、便器にすがりついて嗚咽を漏らしてるところで我に返ったらしく、駆け寄って俺の背中を優しく摩ってくれた。 悠斗(はると)くんから香ってくるスパイシーな香りが少しだけ理性を取り戻させる。 ふーううん!ふーううん! ぐはぁぁぁぁぁ……ぃた! あまりの痛さに尻に手が行く。 その手を悠斗くんが掴む。 「痛いねー、もうすぐだよ。あと少ししたら息めるよー、ゆっくり息して。」 ふはふはと息も絶え絶えで、陣痛の間隔も短くて痛みの長さも長くなっていた。 痛いのが1分続いて、収まったと思ったらすぐにまた痛みだす。 もうわけも分からず、過呼吸気味になる。 頭痛が酷くて手は痺れてる。悠斗(はると)くんに名前を呼ばれるが返事が出来ないでいると、悠斗(はると)くんが俺を何度も呼んではナースコールに手をかけていた。 『北條さん、どうしました?』 「すみません、来てください!過呼吸気味で!かなり痛いようです!」 いつも落ち着き払った悠斗(はると)くんがこの時ばかりは、焦った声で叫んでいたように思う。 バタバタとクリニックスタッフの足音が聞こえてくる間にも悠斗(はると)くんが、悠斗(はると)くんの昼食用に買ってきたサンドイッチのコンビニの袋を空にして、俺の口を塞ぐように覆ってくれた。 痺れた手の感覚が少し戻った気がした。 この頃から陣痛の合間に記憶を飛ばすようになっていた。 あまりの痛さになのか、昨日からの疲れと寝てないせいなのか、たぶん全部ひっくるめて限界になってたんだろうと思う。 悠斗(はると)くんに何回も名前を呼ばれ、うっすら目を開ける。 クリニックのスタッフさん達もなんか叫んでいたように思うんだけど、聞こえない。 クリニックの医院長の顔も、視界の片隅にあったような気がするがそんなのかまってられなかった。 「ほら!もう息んでいいんですよ!」 悠斗(はると)くんが叫ぶ。 うん?いいの? ちょうどその時お腹の形が変わるほどにギュウギュウと子宮が収縮を始めた。 うっっっっっっっん!……はぁっ! はっっっっっっっぅん! ずっっ……。 なにかが腹で動いた気がした。 「優一さん!もう一回!もう一回!息んで!」 ぐっっっっっっっっっっっっっっうっっ! ぅぅぅぅっっっっっっっっっっっっ! いたたっ! あ……あぁっ……あ……

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