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番の印をつけるまで(6)

鼻の奥に濃厚でスパイシーな香りが香っている。 脳ミソを突き抜けるその香りが、甘い痺れをもたらして思考を停止させようとしている。 なんとも安心感のある香りとしか表現できないのだが、これが所謂(いわゆる)運命の(つがい)の証である香りなのだろうか。 この香りは当初、自宅玄関前で嗅いだ香りだったが、これを運命と確信するにたる確固たる自信は俺にはなかった。 テレビドラマや漫画の類では、みんな一発で運命の番を嗅ぎ分けられるのだから、凄い。 本能でわかる部分のはずなのに、分からないなんて。 俺は相当な欠陥品ではなかろうか。 そんな欠陥品、(つがい)にしようとするなんて、悠斗(はると)くん大丈夫かなぁ。 心の隅っこで、こんなネガティブな考えが生まれていた。 初めてオメガと判定を受けた日。 初めての発情した日。 能天気な俺でも落ち込んだ。 オメガには、なりたくなかった。 その気もないのに身体が勝手に発情するとか……なんなんだよ! それでもオメガを受け入れて。 独りで生きていけるように。 前を向いて。 振り返らないで。 親元を離れ10年。 それなりに楽しい人生を送ってた。 それが悠斗(はると)くんと出逢って、世界が変わった。 人に求められる事の嬉しさ。 人に与えられる事の楽しさを知った。 そして大事なものが増えた。 それはパートナーの悠斗(はると)くんだったり、愛息・龍だったり。 それだけじゃなく、その大事な人がいるという充足感や、多幸感。 そんなものが格段に増えた。 悠斗(はると)くんに身を委ねよう。 俺を(つがい)にしてくれる。 多幸感を味わおう。 俺からも味わってもらえるのだろうか? 悠斗(はると)くんにも感じて欲しい。 俺の幸せを。

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