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外山雅人くんの話
〜外山 雅人 くんの話〜
俺の財産は友人関係かな。
ベータに生まれた俺にしては、良い友人関係に恵まれたと思ってる。
中学の時ベータの判定を受けてから、とりあえず勉強と部活に勤しんだ。
ベータだからって自分の限界を他人に決められたくなかった。
塾に通えない程の家庭ではなかったが、塾には行かず、とにかく分からないことは友人、先生に聞いたり、ネットで調べたりと独学で励んだ。
部活は小学校からやってた野球で、キャッチャーで5番打者。
身体はそんなに大きくなかったが、元々肩が強いのと、下半身強化の努力もあり、もぎ取ったレギュラー。
励んだ努力は報われて、中学では万年ではあるが学年三位をキープ。
(どうしても僅差で敵わないアルファ2名がいたんだ!くそ!)
野球もそこそこいい成績を残した。
高校は私立のお坊ちゃま学校に特待生として入学する事が出来た。
学生寮費用含む学費免除、生徒会にも名を連ねたぞ!
アルファが多いその学校でベータの俺が特待生になったのは初の快挙だそうで、俺結構頑張ったと思う。
そのお坊ちゃま学校で知り合ったのが、北條 悠斗 と久米 渉 だ。
北條も久米もいいとこの坊ちゃんらしからぬ、気さくで友達甲斐のあるヤツらで、一般家庭育ちの俺にも心から打ち解けて付き合ってくれた。
北條は三男、久米は次男という気軽な位置関係が自由奔放さを醸し出してたのかも知れん。
その二人が高校を卒業する直前の頃、ベンチャーな会社を立ち上げやがった。
なんか知らないが俺まで名前を連ねられて会社創立メンバーになってた。
だから
北條 悠斗 の ほ
久米 渉 の く
外山 雅人 の と
三人の名前のカシラをとって「ホクト」と名付け、「JOYホクト」という社名をつけていた。
後に社名変更。
出資金は北條がスマホのアプリ開発をして軍資金を貯め、それを元手にしたので、親絡みとかでの七光りとかは一切ない。
最初は小さな会社で、金にもならないような事ばかりやっていたのに、それもほんの二年のうちに小さな一つ一つが実を結び、億を生むようなビジネスがいくつも転がり込む会社となっていった。
しかも日に日に会社は大きくなり、今じゃグループ企業も増えて超優良企業の出世頭だ。
大学生のサークル的な事をしてたのに、億の金を動かすとか、やっぱアルファ様が二人本気になったら怖いな。
俺は大学在学途中から大学費用を会社の役員報酬で賄えるようになり、北條と久米には頭が上がらない。親にも途中まで出して貰った大学費用はきっちり返せた。
今、会社は久米が表立って動かしている。
俺も上層部で久米の右腕って大層なものじゃないがそれなりに動いてる。
26歳という若さで社長業はキツイかもだが、もう8年も動かしてるんだからそれなりに貫禄も出てきたように思う。
北條も役員として名を連ねているが、あいつ上層部で動くより最前線で動きたいとか言って、一般社員には役職も伏せて企画課に在籍してる。
変わったヤツだ。
でも地道な努力と一瞬の閃き、それにアイデアを形にする…人を動かすチカラは相当なモノで、色んなところで才能を発揮してる。
この会社を底から持ち上げてるのは、北條のチカラなんだと思うな。
一年半程前、その北條が運命の番と出逢ったと相談してきた。
隣部署の取引先のオメガ男性だったらしい。
勤務先と名前はわかったものの、自分のフェロモンを感じとって貰えず、しょげていたようだ。
そのせいで他の事は何も調べず、悶々としてたらしい。
相談を受ける二週間前、その日は社内でオメガの女性社員が突然の発情で、フェロモン騒ぎが起こった。
騒ぎの最中、アルファ達が右往左往してたのに、北條は運命の番の香りの方が濃厚でヒートを起こさなかったそうだ。
とても落ち着くラベンダーのような濃厚な香りにもう一つ謎の香りが混ざっていたらしくなんとも言えぬ好みの香りに、コレは北條の番の香りだ!と確信したようだ。
相談に来た日というのは、北條は休日出勤の代休で、俺は午後から仕事が入っていた。
だから朝から北條は、俺の安アパートに押しかけてきてた。
会社までは少し遠いが大学生時代から住み慣れた部屋は2LDKで一人暮らしでも住み心地がいいんだよ。
案外セキュリティもしっかりしてるしな。
根っからの庶民派だから、タワマンとかそんなの慣れないし。
いつも無口で冷静沈着なクセに、相談に来た日はどことなく落ち着きがなく、これからどう相手にアプローチしたものかと頭を抱えていた。
午前11時過ぎ、俺もそろそろ午後からの仕事の準備もあるしなと思っていたら、北條が帰ると言い出した。
まぁ、またなんかあったら相談乗るよって俺が言えば、北條はまた来るよって言いつつ玄関先で別れた。
あれから一週間、北條は重要な用件でという理由で会社を休んでた。
まぁ、あいつの場合仕事のし過ぎだから一ヶ月でも休んでいいくらいだけどな。
後日聞いたら。
俺の住んでいるアパートの隣人が、まさに北條の運命の相手だったらしい。
俺んちの玄関前で別れた後、隣から発情期で会社を休んだ相手が玄関から出てきて、それこそ運命的な再会を果たしたそうだ。
宅配の荷物を取りに玄関前に出てきた相手がアルファの北條と会ったことで腰抜かした所を手助けし、一週間発情期の相手をして思いを遂げたらしい。
お前あれから一週間、隣でヤリまくってたのかーと妙に感慨深かったよ。
あの無口な北條がなぁ。
相手が運命の相手って認識してくれなかったようで、悩んでたらしいが、その発情期の出来事で妊娠。
無事結婚して子供も生まれ、そろそろ本格的に運命の番 の契約をするって。
昨日ちょうど俺と一緒の時に発情期が発生したと連絡がきて、俺が北條を自宅まで送った。
帰宅した北條は子供を会社の託児所に預けたいからと俺に頼むし。
いや。託児所の立ち上げには俺が中心で動いたし、スタッフとも仲いいから、北條の子供を預けに行くのはいいんだけどさ。
子供…龍くんはそんなの知らねぇよ!
もし泣くようなら北條と一緒に託児所まで行こうと考えたけど。
知らないオジサンに泣くこともなく。
やたら機嫌良かったけど、なんだ?…あの誰にも物怖じしないおおらかな子供は。
誘拐されちまうぞ。
それにしても。
北條の無口さ加減といったら、相当なもんだと思う。
あんな堅物と番になって楽しいのかな。
もちろん北條はとってもいい奴ではあるんだけどね。
俺もアルファなら運命の人と番 になれるのに。そう思わなくもない。
でも俺は俺で、今の彼女とラブラブだからいいもんね。ベータはベータ同士ラブラブなんすよ。
北條と違って、言葉でも態度でも、全力投球なわけですよ!
さ。
俺も彼女と愛を確かめ合おうかな。
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