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第4話 罪音(4)

 風呂から出ると、予告通り竜司が大きなベッドで壱流を待っていた。  ベッドの脇にテーブルを持ってきて、ノートパソコンが開かれている。 「ん? 竜ちゃん、なんかしてんの……」 「さっきの、バンド。検索しといた。動画出てきたぜ。……プラグラインて、どういう意味だ?」 「え、さあ……そこまでは」 「検索で、関係ない電源コードみたいな画像出てきたから、なんだろなーと思っただけだけど。まあそんなんはいいや。少しだけ見てみたよ、三味線小僧の演奏」 「その言い方はよせ」  なんだか眞玄の呼び名が三味線小僧で定着しそうだ。ちゃんと名前があるのだから、そちらで呼んでほしい。 「……で、どうだった?」 「あー……うん、そうな。巧いわな。だけど、全体的に物足りない気がするのは、なんでだろな。……んでなに。バンドじゃやらねえの、こいつ」 「悩んでたっぽいけど、西野さんの意向ではあくまでもソロだね。竜ちゃんの物足りない理由ってのも、多分その辺にある」 「ふぅん」  竜司は面白そうに呟いて、やってきたバスローブ姿の壱流に手を伸ばし、ベッドに引きずり込んだ。しかし壱流の左手を掴んだ時に、リストカットの痕が沢山残っているのが目に付いて、顔を曇らせる。 「消えねえな、それ」 「気になるか……?」 「長袖しか着れねえじゃんよ。世間は夏だぜ、暑いだろ」 「――最近はリスカしてない」 「おまえは存外メンタル弱ぇよな。まふゆが出来たんだから、少しは強くなれよな。……ほら、脱げよ。抱いてやる」  バスローブを剥ぎ取って、素肌の壱流を自分の下に抱き込む。メンタル弱いなどと言われた男は不機嫌そうに目を逸らし、ノートパソコンに映り込んだ、既に停止した動画の画面を見つめた。 「竜司……忘れないうちに、曲作ろうな」  リストカットの理由が竜司にあるなんて、今の彼はどれだけ理解しているだろう。  何度もリセットされる記憶。忘れた時に見返せるように、些末なことでもビデオカメラに撮って保存し、それを繰り返し見る。  いつまで続くとも知れぬ不毛な日々をただ繰り返す。音楽に埋もれて、ただ竜司のギターで歌い、気を紛らす。  歌っていればなんとかなる。逆を言えば、歌わなければどうしようもない。たまに気が狂いそうになる。自分が何の為に生きているのかわからなくなる。だから少しくらい、他のことに気を取られても良かった。 (あの子もなんか……腹に妙なもん、抱えてそうな……)  眞玄のことを思い出し、だから惹かれたのかな、という考えがよぎった。けれど竜司の愛撫が思考を剥ぎ取り、すぐに情欲に溺れた。

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