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第5話 罪音(5)

 打ち合わせと称して、竜司は何度か壱流や他のスタッフを交えて辻眞玄と顔を合わせた。 (なんかいい匂いするし……香水つけてんのか。そんで女癖悪そうな顔。軽そう)  初めに抱いた「タラシ」という印象は、やはり実際に会ってもそのまま固定されていたが、喋ってみれば壱流の言うとおり、結構「いい子」なのかもしれない。  とりあえず何度かプラグラインのライブ動画を見て、眞玄のカラーというものを掴み、竜司なりの曲を作った。  歌詞はいつも壱流に任せているから、作曲だけだ。後付けでドラムスやなんかの音を入れたりするのはZIONとて一緒だったので、とりあえずギターソロの部分だけを入れた曲を眞玄に聴かせてやり、ぼそりと言う。 「弾いてみるか、三味線小僧。多少変えてもいい。弾き易いように」 「竜司さん……眞玄、だってば。それやめて……」 「ああ、わりぃな。俺あまり人の名前覚えなくてよ。……で? 弾いてみ。それとももっかい聴き直すか?」 「竜ちゃん、無茶振り」  眞玄は自分の脇にギターケースを置いていたから、いつでも弾けるよう準備はしているのだろう。しかし一度ざっと流しただけで弾けと言われても、それは無理だ。そんなことはわかっている。多少意地悪だったかもしれない。壱流が口を挟んだが、そこはあえて無視する。  壱流が何故今回このようなことを仕組んでいるのか、竜司にはよくわからない。どんだけ眞玄を気に入ったんだよ? という嫉妬が根底にある。嫉妬と言っても色恋的なそれではなく、ギタリストとしての立場上だ。 「や、弾けと言われたら弾くよ。待って、ちょっと……頭、整理する。間違ったらごめん」  少し考えるようにしていた眞玄は、ケースからギターを取り出して、セッティングしている。竜司は不可解な視線で動向を見守っていたが、やがてセッティングが終わり、眞玄が弾き始めた。 「……どういう記憶力だよ?」  思わず竜司の口から本音が漏れる。  眞玄は一度聴いたそれを、基本的なメロディラインは竜司の作ったそのままに、多少変えて良いと言ったからだろうが、本当に自分の弾き易いようにアレンジしてきて、一曲弾き通した。  ずっと眞玄の手元を見ていたが、迷うこともせずに弦をさばき、しっかりとした気持ちの良い音色だった。竜司の音とは、やはり違う。 「間違った?」 「いや……間違ってねえよ。おまえ、記憶力すげえな。少し俺にわけて欲しいわ」  ちょっと呆れたように言った竜司に、眞玄は首を傾げる。竜司の横で、壱流が「相変わらず頼もしいね」と苦笑している。 「んーと、三味線でも、お手本で演奏するのじっと聴いて、その場でそっこー覚える訓練? みたいのしてたから……そういうのは俺、得意かも」  何を特殊な訓練受けているのだろう、この男は。ちらっと西野が言っていたが、父親がやはり三味線奏者なのだそうだ。そういう関係だろうか? 果たしてギターなど弾いていていいのか……竜司には疑問だった。

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